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神戸労山 山旅ブログ

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上ノ廊下(黒部川)2015

2015年8月12日~16日

参加者:4名 

ルート: 奥黒部ヒュッテ~上ノ廊下~薬師沢小屋~折立


【1日目】 8月12日

立山駅7:30~黒部平9:30~ロッジくろよん10:20~平の小屋13:20―渡し舟14:00―対岸14:10~奥黒部ヒュッテ16:00

前日の夜9時に神戸を出発の予定が、N(筆者)の仕事上のトラブルで30分遅れで出発となった。始まる前から前途多難の予感であったが、結果的にはその通りであった。

午前2時半ぐらいに立山駅に着いたが駐車場は思いの外、空いていたのでロープウェー乗り場から5分ほどの好位置に車を止めて外で雑魚寝となった。街では熱帯夜が続いていたからシュラフもカバーもザックの奥深くにしっかりとパッキングをしており、マットの上に長袖のジャージを着て転がっていたが結構寒かった。他の皆は、抜かりなくシュラフカバーを出して快適に寝ていた様だ。

わずかな仮眠を取った後、6時40分の便に乗る予定でロープウェーの駅に向かったが、そこには既に順番待ちをする観光客が溢れていた。少し焦ったが30分程待ったら乗車することが出来た。
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ケーブルカーやバスを乗り継いで黒部平まで向かったが、この日は時刻表とは関係なく随時発車していた様で、スムーズに行けた。利用者の大半は観光客で、ある程度は登山者も混じっている。それでも我々の様にライフジャケットを持っている風変わりな装いの者は見かけない。観光客は写真を撮ったりしていた様だが、我々はバスの中では爆睡であった。
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黒部湖まで行くか迷ったが、結局、黒部平から歩く事になった。快適なハイキングコースかと思いきや、普通の山道で、しかも少し急な下りで疲れた。さらに天気も良くはなかったが、黒部湖が見えてくると、いよいよだなという気持ちが沸き起こり元気が出てきた。
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平の渡までは、単調なアップダウンを繰り返しながら3時間ほどの道のりだ。さしたる注意点もないが、地味で疲れる。黒部ダムを走る観光船に乗せてくれたら一瞬なのにという思いが尚更に疲れさせる。

予定通り、時間に余裕を持って平の小屋に着くことが出来た。ここへ来て始めて他の遡行するパーティーを見かけた。このとき小屋の無線で流れていた内容から、前日に上ノ廊下で単独行者の死亡事故が発生していたこと、及びその時にヘリで収容中であった事を知った。我々パーティーにも少なからず緊張が走った。亡くなられた方を発見したパーティーは遡行を中止して引き返し小屋に連絡したとの事。その状況は察するに余りあるが、この先行者が無ければ我々が発見していた事になる。そうなれば我々とて引き返すより他に選択肢は無かったであろう。

14時過ぎ、収用人数7人の小船に揺られて対岸へと渡った。
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ここから先は、所々に危うい木の梯子が通されているところがあって怖かった。あれを設置する工事をされる方はさぞ大変だろう。上ノ廊下は秘境の名にふさわしい場所、アプローチもそれなりに大変であったが夕方には無事に奥黒部ヒュッテに辿り着き、ここから河原の泊地へと向かった。
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【2日目】8月13日

東沢谷出合6:30~下の黒ビンガ7:40~口元ノタル沢9:30~広河原13:40~上の黒ビンガ14:30~金作谷手前16:00

天気予報が悪いので雨が降るまでになるべく難所を突破しておくとの計画で6時出発の予定だった。しかしN(筆者)がパッキングに手間取り30分遅れとなる。40Lで5泊の荷物をまとめるのは大変困難であった。

2年前に遡行しているOによれば水の量は前回よりも少ないとの事。それでも注意しないと流されそうな水流ではあるが、ストックで足元を確かめながら各自で渡渉していく。(振り返れば決して良い天候ではなかったが、個々人の力量がある程度あった事、パーティーの総合力があった事、これが今回の遡行を成し遂げた要因であったと思う。何十回とある渡渉をロープもスクラムも使わず、安全かつ速やかにこなせたのは大きかった。)
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しばらく歩くと、ガスの中から迫力のある岩肌が見えてきた。噂に聞く下の黒ビンガだ。Mはそれまで何でもない崖を見る度に、「あれが下の黒ビンガか?」と繰り返していたが、実際に見てみると他と間違えるはずも無く、大昔から名所であったのも納得であった。
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少し危険を感じる場所では、トップがロープを繋いで渡り、セカンド、サードはフィックス、ラストを引っ張るという方式を多用した。
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このロープ渡渉でキリンマンジャロでも使ったというMのストックが折れた。
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順調に進むと今回の最大の核心であった口元ノタル沢ゴルジュが現れた。
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上ノ廊下(黒部川)2015_d0264710_1212680.jpgOが右岸をへつりながらなるべく進み左岸へ泳ぐ。左岸の岩場を登り、際どくへつっていく。滝を越える手前で順次後続を引き上げる。しかし、その先の岩場が悪く微妙だ。滝の直下は右岸側から容易に登れそうなので滝身に飛び込んで右岸へ再び泳ぎ滝を越えるか、そのまま岩場をへつるか迷ったが、Oが先行しルートを確認、リーダーHの判断でそのまま左岸をへつる事になった。

残置ハーケンとカムで確保しながら危うい場所はなんとか越えた。しかし、その先で事故寸前の事態に陥った。N(筆者)が岩場を降りて左足を水に入れ、次に右足を適当に入れたら下には足場が無くバランスを崩して前のめりにこけた。水量は膝上程度だが流れが強い場所なのでザイルはつないでいた。しかし、転んで水の中に入ると一気に流される。一旦は滝の手前で止められたが水流が強く体勢を立て直すことは出来ず、そのまま先ほど超えてきた2Mの滝下に落ちた(写真↓中央)。そして、滝下に落ちた状態でザイルに引っ張れているので、滝の水圧をまともに受けて下に押し付けられ身動きも出来ず、辛うじて呼吸をしている溺れかけの状態であった。沢の事故では危険なパターンの一例であったと思う。幸い他3名の状況判断が冷静かつ的確であったので、ザイルをそのまま流してくれて、滝から脱することが出来た。
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距離にして500mもない口元ノタル沢ゴルジュの突破に3時間を費やした。その先には一転して緩やかな広河原が現れた。その名の通り山奥とは思えない広大な河原だ。
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まもなく上の黒ビンガが現れた。下の黒ビンガに比べて迫力がないとか、勝手な事を言いながらも、ばっちりと記念写真を撮った。
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上ノ廊下には、何本もの有名・無名の枝沢が流れ込み、数多くの滝を目にした。
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上ノ廊下(黒部川)2015_d0264710_21571433.jpg時間も夕方になりつつあったが金作谷手前に泊適地を発見した。場所が上ノ廊下で、天気が雨模様ということで、逃げ場のある高台は絶対条件であった



ちょうど高台に着いた頃から雨脚が強くなり始め、たき火に火が付けられなかった。雨に打たれながらの焚きつけは厳しい作業となったが、リーダーHが上にタープを張り、ガスバーナーで着火するという強行手段を取り、なんとか火をおこす事に成功した。火がおこると何となく安心した気分になる。その後、雨は止んだが、後続のパーティーが来ることはなく、快適な泊地を広々と使わせて頂いた。
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【3日目】8月14日

夜中、おそらくは1時頃だろう、強い雨音で目が覚めた。ツェルトは強めに張っていたが、つま先に雨がかかっていた。川の様子は気になるが、面倒なので足を引っ込めて、そのまま寝た。

そして、翌朝、外に出て川を見てみると、前日とは一変していた。高台の前は濁流となっており、即座に7時出発の予定は延期された。

上ノ廊下(黒部川)2015_d0264710_2291814.jpg前日16時の金作谷出合


上ノ廊下(黒部川)2015_d0264710_2293838.jpg14日6時の同場所













暇を持て余し、釣りをしてみたが、全く釣れる気配がなかった。
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昼過ぎになると水量も減り濁りもなくなってきたが依然として雲行きは怪しく、この日はここで停滞となった。また、この日も後から来る人はなく、結局、初日の入渓前に他パーティーを見かけたきりであった。

【4日目】8月15日

金作谷出合6:30~岩苔小谷出合10:30~立石奇岩12:00~薬師沢小屋15:30

上ノ廊下(黒部川)2015_d0264710_1657308.jpg金作谷出合、本流沿いにも雪渓が残っているが、横の河原が普通に歩ける。










金作谷出合を過ぎた所にある淵。2年前、労山のパーティーはここを高巻いたらしいが、今回の水量では普通に通過出来た。前日の増水時ならば厳しかったかもしれない。
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ついに空が晴れ、深い谷底にも日が差してきた。日光の有り難さを感じ、気持ちも明るくなる。
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所々に現れる緩やかな泳ぎも日光があれば辛くはない。
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ようやく渓谷美を感じる余裕も出てきた。
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岩苔小谷出合。左に行けば高天ヶ原。いつか温泉に入ってみたい。
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綺麗な瀞場。こういう所を岩魚が沢山泳いでいるイメージだったが、一匹も見なかった。
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白い岩肌と迫力のある流れ。青空の下、快適な遡行が続く。
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左岸からスダレ状の滝が流れ込む。
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ついに姿を現した立石奇岩。これが見えたらゴールは間近だ。
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大東新道と出合う。荒れていて、あまり利用されないという話がよく分かる道。
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連休中で賑わう薬師沢小屋へたどり着いた。小屋で聞いたところでは、我々が今年4組目の到達者であったそうだ。
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【5日目】8月16日
薬師沢小屋6:30~太郎平小屋8:00~折立10:40

小屋を離れ谷筋を抜けると黒部五郎岳が背後によく見える。
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薬師岳を望みながら、快適な道が続く。太郎平小屋ではドコモが通じるので、タクシーを予約して折立へと向かう。
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最終日は下山するのみだが、一般道とはいえ、それなりに距離があるので疲れる。特に太郎平から先は、急な下りで足にくる。また、下山するにつれ、じわじわと気温が高くなり現実の世界に引き戻されていく感じだ。



《筆者後記》 3年越しの夢だった上ノ廊下。僕は、ここに来たいが為に神戸労山に入ったのだった。果たして、その圧倒的な流れと長さは、他に全く類をみないものであった。昨年度は台風によって中止、今年も決して天気に恵まれたとはいえないが、メンバーに恵まれて無事に歩き通す事が叶った。いつか、近いうちに、今度は源流まで上ノ廊下を詰めてみたいと思う。
by koberozan | 2015-08-23 23:43 | 沢のぼり

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