2019年8月10日~8月12日 メンバー5人 N島、Y、H、M、N
【ルート)双六ダムー小倉谷出合(入渓)-双六小屋ー新穂高温泉
8月10日 7:15双六ダムー11:30小倉谷出合ー休憩ー12:00小倉谷出合入渓-17:40打込谷出合(泊)
8月11日 6:30発ー10:45センズ谷ー11:30下抜戸広河原ー14:40蓮華谷ー16:00 1800m(泊)
8月12日 6:00発ー8:00抜戸沢ー11:00 2350m二股-12:15双六小屋ー13:00発ー18:30新穂高温泉
名渓として名高い双六谷。かつて黒部五郎小舎で働いていた際、毎夜交わされる山の話の中で、黒部源流を取り巻く山や渓谷のことを聞いていた。黒部平からは笠ヶ岳の端正な三角形のシルエットがよく見える。そして、間を流れる双六谷の話はよく出ていた。水量の多い沢で荒れたら凄まじい。しかし、天気が良ければ大変美しい、壮大な沢であるとのこと。当時、沢登りの経験のなかった僕は、いつかそんな場所へ行ってみたいものだと思っていた。そして、それから6年が過ぎ、その機会を得る事が出来たのだ。
【8月10日】

前夜に神戸を出発し双六ダムに到着。昨年、小倉谷を遡行したときよりも駐車地が混んでいる。車を置けるのかと焦ったが、なんとかスペースを見つけ出す事が出来た。沢で他のパーティーに出会うことは稀である。しかしながら、今回ばかりは沢も混んでいるのだろうかなどと思ったが、結局は数組を見かけた程度で混雑とは無縁の世界であった。
台風が発生していることもあり、天気の心配はあったが、当日は快晴。下山予定の12日までは、なんとかなりそうな予報であった。快晴となれば必然的に気温が上がる。入渓地点までの4時間以上の林道歩きが恐ろしい。しかし、道が沢沿いにあるので、涼しい風が吹く。そして、所々に湧水があるので、冷やしながら歩けば、なんとかなる。ということを、昨年、学んだ。水は大事だ。

お昼前に無事に小倉谷出合に到着。昨年よりは水量が多そうだ。しかし、昨年、小倉谷を遡行したときは、明らかに渇水だった。
そして、一昨日にも同地を見ているHによると、一昨日の大増水のときよりは、水が少ないとのこと。ちなみに、僕は一昨年(2017年)の同時期には、湯俣川を遡行して北鎌尾根に向かったのだが、かなり水量が多い年だったのだと思う。そんなことを合わせて考えると、おそらく今回の水量はやや少なめぐらいだろうか。

事前に過去の記録などを下調べした感じでは、下部は右岸の踏み跡より高巻いて打込谷出合より入渓のパターンが多そうだった。
しかし、せっかく北アルプスの沢まで来て省略してしまうのはモッタイナイ。そんな物好きな僕の意見に、さらに物好きなHとYが賛成し、小倉谷出合より入渓となった。結果的に考えて、この判断は正解であった。双六谷は水量の多い泳ぎの沢。当然、下部の方が水量が多く、難易度も高い。打込谷が目的ならともかく、双六谷をやるのなら、ここを高巻いては沢の半分を飛ばしたようなものだろう。今回の水量ならば、迷わず下部からです。

Nさんの悪いロープ渡渉の見本(↑) 流されるときは上を向くのが基本です。水流を正面から受けていると溺れます。
出来れば、もう少し水量の多い時にやってみたかった。今回の水量ならば楽しく、へつり、泳ぎ、進むことが出来た。MとNはそうでもなさそうだったが・・・ そんな訳でロープを出す回数が増え、結構、時間がかかった。予定では16時頃には打込谷出合に着いているはずだったのだが。この沢なら多少は流されても危険ではないので、気にせず、さっさと進めば良かったと思う。
20mフローティングロープは有効であった。結局、今回の状況では50mは使っていない。闘将Hは50mを二本持って行く計画を立てていた。そして、危うく僕も50mを持たされるところであった。色々あってリーダーが僕に変わり、50mは闘将だけに押し付ける計画に変更、危険を際どく回避したのだ。このロングルートを濡れた50mを持って歩く体力は僕にはない。

ひたすらエメラルドグリーンの激流を進む

18時前に打込谷出合の手前まで辿り着けた。この辺りは、泊適地なので他にも数組が泊まっていた。
【8月11日】

今日の目標は抜戸沢出合。長い行程になる。初日の遡行に時間を要したことから、早めに出発したい。しかし、真夏とはいえ朝一で北アルプスの冷水に浸かるのは辛い。喧々諤々の議論・・・はしていないが、皆で話あって6時30分の出発となった。

センズ谷を過ぎると、川幅も広く、穏やかな様相となる。Mさんの顔も明るくなった。

ようやく稜線が見えてきた!! と喜んだが、よく考えたら、まだまだ遥か先だ・・・

まさに透き通るような水だ。穏やかな流れを気持ちよく歩く。闘将Hは、初日の水量の多い地帯が核心部分で、あとは消化試合などと言っている。彼の辞書に「渓谷美」などいう言葉はない。とりあえず、書き足したが、すぐ消えるだろう。

枝沢のスケールが、いちいち大きい。そして綺麗だ。上ノ廊下を思い起こさせる雰囲気だ(穏やかな部分に限る)

最低でも蓮華谷出合を超えるのが今日の目標だった。それは15時前にクリア出来たので、あとは良いテント場があれば、適宜、遡行終了の予定。蓮華谷から抜戸沢の間には適地が豊富だった。明日も長いので、16時で打ち切り。
【8月12日】

3日目も良い天気!! ここまで来たら水量は減るけど、まだまだ水はあります。全身が水に浸かるようなことはないので、朝一で6時に出発。下山の行程を考えたら、昼までには双六小屋に着きたい。

抜戸沢出合を過ぎると、一気に源流の様相となる。もうすぐ双六池に着きそうな雰囲気・・・と見せかけて、沢はまだまだ続く。

先頭を行くYさん。快調に飛ばしながら転倒。北アルプスだからゴム底でしょと、なんの迷いもなく靴を選んだのだ。これが源流に来てよく滑る。この沢は、滝の登攀がないのでフェルトで良かったかもしれない。

一枚も記念写真を撮っていなかったことに気が付く。この沢を歩きながら、観光客に混じって池の前で記念撮影では残念なので、せめて水流があるうちに一枚。左端に野猿が入ってきた。Mさんは座っていると見せかけて、疲労困憊で座り込んでいるだけ。

ついに最後の二股

快適な踏み跡を辿ると双六池に到着。小屋に着くと人が溢れていて驚く。突然、俗世間に帰ってきた気分。とはいえ、軽量化の為に柿ピーまで削り、3日目の序盤でレーションが尽きていた僕には、小屋で食べたカレーが劇的にうまかった。文明のありがたさは、文明を離れてこそ実感できるもの。神戸には多数のカレー店がありますが、双六小屋で食べたのが一番でした。3日沢を歩いたら、上手いカレーが食べられます。
【あとがき】
双六谷、名渓というに相応しい、うわさ通りに壮大な沢でした。同じ北アルプスということで、上ノ廊下に近い雰囲気もあり、トレーニングに最適な沢だと思います。2015年上ノ廊下に行くにあたり、トレーニングが出来る泳ぎの沢を探したが、関西では見つからなかった。こんなところにあったのか、という感じだ。ここまで、来ないと満足な練習も出来ないのか・・・
昨年は隣の小倉谷を遡行したのだが、双六とはタイプが違う。小倉谷は登攀の要素も少しある。今回のルートについて、闘将Hはちょろい沢だという、野猿Yは楽勝だという。M,Nは単に疲れ切って言葉もない。僕としては、最初の激流から、最後の一滴まで辿れる、全行程が美しい素晴らしい沢だと思う。